今、 先輩が自分の目の前で泣いている。
好きな女を抱きしめられない自分が情けないよ、本当。



「もー、やだ。なんであたしあんなんばっか好きになっちゃうんだろう」

いつも強気な 先輩らしかなる発言に、少しドキっとしたとゆうのは置いておいて。

「赤也、話があるから放課後、部活サボって付き合って」

いつもと同じ強引な誘い方に、淡い期待を抱かなくなったのはいつからだろう。


「やっぱ、付き合う前にいつもやっちゃうから駄目なのかなぁ?」

先輩は公園のベンチに小さな膝を抱えながら俯いて言った。

「まー、先にやっちゃうと男は簡単にやれちゃうと思って、本気にはなりにくいかもしれないっすね」
「でもそっから始まるかもしれないじゃん?女だって好きな男に誘われたらやりたいもん!女にだって性欲はあるんだからね!やったら想いれとか、あたしに触れた手だとか、甘い言葉だとか。忘れらんないじゃん!」
「男はそこまで考えないかなー?とりあえずやれたらラッキー。好きな女には行き成り手出したりしないよ、俺ならね。大切にしたいもん」
「うわーん!赤也のやり×ん!」
「女の子がそんな破廉恥な.....」
「あたしはいつだって真剣なのに!純愛したいだけだもん!」
「純愛したいなら、とりあえず付き合うまでやっちゃ駄目でしょー」
「雰囲気に流されちゃうんだもん!!」


先輩はちょっと惚れやすいところがあって、いつだって自分の直感に素直で直球。だから、逆に騙されやすくて傷つく事も多い。(男から見たら恰好の餌食っす)
いつも惚れて、すぐにやって、すぐに終わる。そして俺に泣きつく。(もう飽きたよ、そのパターン)


「先輩、先輩、はいコレ」
「.....何?」
「とりあえず、失恋っつたらやけ酒っす」

赤く腫らした目元の上の眉間にしわを寄せた先輩に、俺はさっき公園に来る前に寄ったコンビニで買った袋を差し出した。一体何なのか全く分からない様子で、一瞬袋を手に取るのを戸惑った先輩は少し躊躇しながら袋を受け取るとゴソゴソと漁る。

「....やけ酒って、甘酒じゃん。これ」
「だって制服で酒なんて売ってもらえないじゃないっすか」
「こんなん酔っ払うの?」
「さー?一応アルコールなんじゃないっすか?」
「えー?甘酒ってそうなの?」
「知らないけど、まー何にも無いよりはいいっしょ」

「何それ」と苦笑しながら缶の蓋をぷしっと空けて、こくんと飲む。
さっきまで涙を流していたその目と鼻は真っ赤だけどれど、少し大人しくなった 先輩を横から見ると改めて感じる時がたまにある。
長い睫だとか、キレイな指先だとか、意外と華奢な肩とか、思わず抱きしめたくなるくらい俺はこんなにも意識してるのに。



「甘い.....」
「甘酒っすからね」

続けて俺もぷしっと親指で指で缶の蓋をあけて、軽く匂いを嗅いで一舐する。冬の寒さに悴んだ指先がじんわりと滲んだ。

「あたしの恋は苦いのばっかり....」
「うまいね、それ」
「もー!真剣に言ってるのに!茶化さないで、ばかっ!」
「茶化してなんてないんすけど」
「世の中の男があんたみたいのばっかだから、傷付くあたしみたいのがいるんでしょ!?一体何人目なのよ!?今の彼女で!」
「 ひど!俺そんなに鬼畜じゃねーもん!みんな勝手に俺に幻想押しつけて勝手に幻滅して離れていくんだよ」
「そんな事ないよ。赤也って友達としてなら最高にいい奴じゃん。まー彼氏としては知らないけどさ。あたしの友達の友達とか、何人もあんたには泣かされてる筈だよ」
「ひどいなー、それ。俺はいつだって真剣だよ」
「.....どーだか」



だってホントはさ、ずっと 先輩が好きだったなんて、今更言ったらネタにもなんないでしょ?貴女は知らないかもしれないけれど、いつも振られる理由は同じで。


『切原くん、本当はあたしの事なんてすきじゃないんでしょ。』


3カ月前に付き合っていた彼女に振られる間際に言われた一言。
ああ、もうこの似たようなセリフを聞くのは一体何回目なんだろう。自覚は勿論あった。だけどどうする事も出来ない。理由はわかっている。


「あたし、つぎは絶対付き合うまでやらない!今度こそ絶対純愛するの!」

毎回言ってるその台詞だって、

「また、何かあったら報告するからね!」

いつもいつも、正直聞きたくない話ばっかりで。
部活をサボった次の日には先輩達の鉄拳が飛んでくるにも関らず 先輩の愚痴を聞いてさ。割りに合わないんだけどね、本当。



「.....だから、今日はいっぱい泣くもん」

甘酒の缶を両手で握りしめて肩を震わせて泣く先輩を、本当は抱きしめたくてしょうがなくて。
でもこの一線を越えたら永遠に戻れない事、先輩は俺の事を『男』として微塵も意識していないこと。それを痛いくらいにわかっているから。

何も出来ずにただ、側にいる事しか出来ない。
それでもこの場所で、貴女の横で誰よりも近くにいれるこの場所を、俺はまだ失いたくないんだ。




















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