卒業してから2回目の冬が訪れる。人ごみの中 を見つけた。
肩まで伸びた栗色の髪と、身に着ける制服とはあの時と違うもので隣には背の高い俺の知らない男がいて、それでも幸せそうに笑う笑顔はあの時のままで。
小さな手は俺ではなく他の知らない誰かの手を握っていた。





もう2度と戻らない、それでも確かに幸せだった。
好きだとゆうと真っ赤になって笑ってくれたの笑顔。俺達はもう別々の道を歩いているのだ。白い星が輝く、口から漏れる息は白く残像を残す。あの時握った、君の小さな手はとても冷たかった。


「もうすぐだねー、受験」
「だなー」
「ブン太なら出来るよ。大丈夫」
は心配ないしなー」

「わかんないよ、そんなの」と白い肌を微かに赤く染め は小さく笑った。小さな手、少し力を入れれば今にも折れてしまいそうな微かに力を入れて握るといつもそのまま握り返してくれた。それがうれしかった。
白い星、変わらない帰り道、でもそれもあと3ヶ月。


「クリスマス。一緒にすごそうぜぃ。どっか行きたいとこねーの?」
「余裕な発言」
「いーじゃねーかよ!1日くらい!息抜きだって必要だろぃ?」
「だってお正月も一緒に過ごすんでしょ?」
「それとコレは別。学業の神に丸井ブン太が高校合格できますように!ってしっかり頼まねーといけないし!」
「でもびっくりだな。まさかブン太が外部受験するって言い出すなんて夢にも思わなかった」
「夢だったりして。夢オチってやつ?」
「だといいんだけどね」

そう言い残しは今度は寂しそうに下に俯いた。
いつか僕らが大人になるために何度も通るいくつかの分かれ道。それがきっと今で。夢に夢中で我武者羅でいつからかその環境が当たり前になっていった。夢を叶える為なら何だって犠牲に出来ると思っていたし、何よりも優先したかった。
でも、それを改め考えさせられるのは間違いなく の存在だった。

「頑張ってね!テニス!あたしブン太のテニスしてるトコが1番好きだから」

そう言って満面の笑顔をは作ってみせた。



ごめん
ごめんね
そんな顔させてごめん
一緒にいれなくてごめん
寂しい想いさせてごめん
1人にしてごめん



謝りきれない想いと、それでも諦められない想いがいっぱいで、きっと心が押しつぶされるっていうのはこうゆう事を云うんだろう。好きだよ?誰にも負けないくらい世界で1番。が笑ってくれるのなら何度でも云うよ。


「学校が別々になったって別に別れる訳じゃないし、東京と神奈川なんて近いじゃん。すぐそこじゃん」
が寂しくなったらすぐ飛んできてやるよ」
「逆でしょー?」

の薬指にはまった小さな指輪がきらりと光る。
夏に夜店の露店で買った安物だけど俺達には十分すぎるもので、物自体がどうこう言うよりも同じものを身につけるという行為がうれしかった。それだけで本当に永遠を誓えるような気さえした。

俺が東京の高校に外部受験したいと言い出した時 は怒るわけでも悲しむわけでもなく笑ってくれた。すごいじゃんブン太、頑張れブン太。そう言ってくれた。「遠距離恋愛だって、なんかかっこいいね、響きが」そう言って君は笑った。

いつも笑ってくれた、毎日部活ばっかであんまり一緒にいれなくて。それでも幸せだと云ってくれた。
それでも俺が好きなのだと、すこし顔を赤らめて笑ったあの時の小さな手はもう2度と握れない、永遠を誓い合った薬指の指輪はもう、はめられない。



立海大付属ではない高校に進学してからも相変わらずテニステニスの毎日には変わりなかった。
俺たちはあの時別々の道に進んだけれど、もしかしたら同じ道に進めばまた違う未来があったのかもしれない。でも後悔はしていない。変わらない想いはただ一つ。君がどうかこれからもずっと笑い続けていれますように。





風が強く吹いて寒くて背筋が無意識に丸くなる。ネックレスのチェーンに通していたあの時の指輪を指で軽く摘んだ。口から漏れる息はあの時みたく白い残像を残し、なんだか少し、少しだけ切なかった。
忘れようとしているうちは、まだ忘れられずにいるっていうことなのだろう。

















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