「侑士ー、引越しの準備できたー?」
「あー、まぁ、ぼちぼち」

自転車の車輪の回転する音がシャーっと鳴って風をきる。昼下がりの太陽はキラキラしていた。3年間何度も、何度も2人で通った通学路。侑士の運転する自転車の後ろは、今日までずっとあたしの特等席でした。


この記念すべき旅立ちの日に、この卒業とゆう人生の区切りに、あたしたちの関係も今日で卒業します。


侑士は卒業後、実家に帰って大阪の高校へ。そしてあたしはこのまま地元の高校へ。もちろんこれから遠距離恋愛をしていこうかとも考えました。
でも、あたし達はまだ15歳で、悔しいけどまだ何も出来ないただの子供で、まだ幼すぎて。
今度はいつ同じ土地に住めるのかわからない、同じ時間をまた共有できるようになるのかわからない、先の見えない不安な想いを抱いて恋愛をしていくよりも、お互いにこれからの出逢いを大切にしていこうと何度も話し合って2人で決めました。


桜がぱらぱらと咲き始める、この見慣れた帰り道。
坂道を下りきると、何度も何度も足を運んだ侑士のマンションが見える。かちゃんと、鍵を開けて1週間ぶりに入った部屋はとても殺風景で、ベットとテレビと、大きなダンボールが2つ置いてあった。


「ねぇ、.....高校行ってさー、彼女とか出来たら一番に報告してよね」
「....ああ」
「どっちが先に出来るかな?まぁ、間違いなく侑士だろうけど」
「あほか、絶対お前やって」
「あはは、そうかなぁ?」






侑士と付き合ったのは2年前。
2年生に上がって同じクラスになったあたし達はすぐに友達になって、初めてこの部屋に遊びに来た時キスをしました。
そしてその後すぐに侑士に告白されて順番逆だね、って2人で笑いました。
初めて体を重ねたのもこの部屋でそして今日終わりを迎えるのもこの部屋なのです。

「....キスしたい」

あたしがそう呟くと、侑士は静かに抱きしめてくれて、そっと唇を重ねてくれた。


2年間本当に楽しかった。喧嘩もいっぱいしたけど、それ以上に侑士がいてくれた毎日は本当に幸せで。何よりもかけがいのない大切な時間だった。
思い出すのは楽しかった思い出ばかりで、涙がこみ上げて視界がぼやけてきた。
絶対泣かないって決めたのに。侑士は何も言わずに強く抱きしめてくれた。


「っう....、く....」

声が抑えられなくて、侑士の息が、鼓動があたしに伝わる。

、....すきやで」

低い声で、今まで何度も愛しいと思った声で、侑士が言った。鼓動が高鳴る。






だってあたしだってこんなにも侑士の事大好きなのに。泣かないと決めた筈の誓いは虚しく涙が次から次へと溢れ出す。

「っ――――」

侑士に回した腕に力が籠もる。

「....反則やんな、....ごめん」

小さく侑士が呟いた。それが本当に悲しかった。

本気でこのまま時間が止まればいいと思った。ずっと一生このまま2人の時間を閉じ込めてしまいたいと何度も願った。このままあたしを連れ去って欲しかった。何もかも捨てて侑士と一緒についていきたかった。
本気で侑士の事、大好きだった。


2年前、あたし達はこの部屋で、こんな終わりを決して望んでなんかいなかった。ただ一緒にいたかった。





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