あたしがおもしろくないのは別に、あたしが髪を切れと言ったから切ったわけじゃないのがおもしろくないわけじゃなくて。実はその長い髪が好きだったとかゆーわけでもなくて。
ただ本当にテニスの事しか頭にないこいつが、本当に、本当にちょっとだけ。おもしろくなかっ、た。


「髪短いと別人みたいだね」
「あ?別になんにも変わんねーよ。見た目だけの問題だろ」
「キャップなんか被っちゃって」
「......悪いかよ」

あたしと宍戸しかいない教室に夏のギラギラと光る太陽と涼しい風が入り混じる。グランドで叫ぶ野球部の声が、遠く、蝉の鳴き声が、近い。宍戸は下を向いて真剣に日誌を書いていて、全く変なところで真面目な奴だと思う。前の机に座り向かい合わせになった感じであたしはじっと、短くなってしまった宍戸の髪先を見つめた。


「んだよ?」
「別に」
「っつーかお前も日直なんだから代われよ」
「やだよ」
「かわれ」
「やだ」
「だーっ!!もうっ!はやく部活行けねーじゃんっ!!」
「別に宍戸がはやくやりゃいーじゃん」
「..........ほんっと激ムカつく」
「それはどーも」

宍戸は嘆息すると、また日誌と睨めっこをはじめた。額に当てられたバンソコ、口元の傷、体中のアザ。一体何やってんだよ、ばか。そんなにテニスが大事かい?

「ねぇ」
「あ?」
「そんなにテニスおもしろい?」
「.....何言ってんだ?お前?」

あたしはね、おもしろくないの。だって、

「あたしとテニスどっちがおもしろい?」

いつだって宍戸の頭の中はテニスの事でいっぱいで、あたし入れる隙間なんて、これっぽちもないじゃない。

「はぁ?」

「......」
「......」
「.....なんか言ってよ」
「.....何?お前俺が好きなわけ?」
「馬鹿じゃん」
「あそ」

ぴんぽんぴんぽん、大正解。でもそんな事、絶対言えるわけないでしょう。

「じゃあ、どっちが好き?」

あたしがそう言うと日誌を書いていた手を止めた宍戸が、また顔を上げて眉間に思い切り皺を寄せてから答えた。

「テニスに決まってんだろ」
「でしょうね」

それは最初から分かりきった答えで、宍戸自身もそんな深く考えて答えた言葉ではないという事、そんな事くらい十分わかっている。でもね平気なわけでもない。(女ってメンドクサイ生き物なんです)
もしここであたしが素直に泣けるようなかわいい女だったならば、宍戸はあたしの事を好きになったりしてくれるのでしょうか。そんな事、素直じゃなくて、可愛げのないあたしが、出来る筈がないのだけれど。

「あたしは好きだよ」
「......何が?」
「テニス」
「はぁ?」

改めテニスやってる宍戸が。

「何?お前テニス好きなん?」
「うん、ダイスキ!(な訳ないだろうが!)」
「じゃあさ、今度試合見にこいよ!」

そう言って満面の笑みを浮かべて笑った。(不意打ち、だ!)
他の事には全く興味なんて示さないくせに、テニスの事となると目が違う、話の食いつき方も全く違う。そんなあたしがこの先きっとテニスに勝つ事なんて出来ないでしょう。

でもね、そんな君があたしは大好きなんだよ。



「うん、いっぱい応援するから勝ったらなんか奢ってね!」
「......なんかおかしくないか?それ」







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