「最近どう?レギュラー取れそう?」
「当たり前だろ」
「.......君、最近かわいくないよね」
「.......」
「亮ー」
「なんだよ?」
「1回戦見に行くからね。絶対に出なさいよ」
「は?来なくていいし!」
「素直じゃないなぁ」

部屋のベッドに横になりながらテニス雑誌をめくる幼馴染の後姿。またあたしが知らない間に傷が増えた様子の額と頬に触れようかと思って、なんとなくやめた。
あたしと亮は幼馴染みで物心ついたときから、ずっと一緒だ。
小さな頃は、あたしよりもずっと小さくかった亮は、髪を伸ばしていたせいもあり、いつも女の子と間違われていた。それは物事の良し悪しも分別のつかない子供にとっては恰好のいじめの標的になる。
いじめられて、いつもあたしは下唇を噛みながら涙をこらえて歩く亮の手を引いて帰っていた。想い出は炭酸水の泡となって少しずつ、空気に溶けて気化をしていく。亮にはあたしがついててあげなきゃいけないと本気で思った、あの日の帰り道。

「昔はかわいかったのになぁ」
「あ、それ食いたい」
「あ!最後の一個!あたしのタケノコの里!残しておいたのに!」
「さっさと食うわねぇのがいけねぇんだよ」

いつから亮はあたしがいなくても大丈夫になったんだろう。

いつの間にか追い越された身長や、気が付いたらあたしより大きくなってた手のひらだとか。学校帰りに知らない女の子になんか貰ってたりしてるのを見たりとか。
だけど、そんな事よりも、たまに見せる亮の横顔が、妙に大人びたその横顔が。まるであたしの知らない人みたいで。
最近、亮にはたくさん仲間が出来て、あたしの知らない人たちと笑い合う。あたしがいない場所で。そんな時間が。
(胸がつぶれそうだ)


テニスを始めた亮が、どんどんあたしの知らない環境で、知らない仲間達と、知らない時間を過ごしていく。これからもずっと。それは当り前の事で、あたしたちはそうやって少しづつ大人になって行く。手を伸ばせば、触れあえるくらいこんなにも近くにいるのに。

(好き、だなぁ。泣きそうなくらい好き、馬鹿みたいだけど)




「え!?おい、ちょ、なんで泣くんだよ!」
「....わかんない、うう、亮のばかー」
「ええ!?わかった!ごめん!今すぐタケノコの里買ってきてやるから!泣きやめ!泣きやめ、な?」
「うう....」
「わかった!きのこも付けてやる!ほんとごめんって!」

そこじゃないよ、ばか野郎。
(でも、大すき、だ)






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